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勤怠不正の素行調査:実態解明から再発防止まで

勤怠不正の素行調査:実態解明から再発防止まで

1. 事例の概要

依頼に至った経緯と背景

愛知県内に本社を置く人材派遣会社X社から当社へ相談がありました。X社は複数の取引先企業に社員を派遣していますが、その中でも大手製造業Y社に派遣されている社員A氏の勤務実態に疑問が生じたのです。Y社の現場責任者からは「A氏はタイムカードの記録上は勤務しているが、実際の業務成果が極めて低い」「同僚からはA氏の姿を見かけないという報告が複数ある」との指摘がありました。

X社の人事部は、A氏の過去3ヶ月の勤怠記録を確認したところ、出退勤時間は規則正しく記録されているにもかかわらず、Y社内のセキュリティシステムへのアクセスログが不自然に少ないことに気づきました。さらに、A氏の業務報告書の内容が徐々に具体性を欠くようになり、上司からの質問に対する回答も曖昧なものが増えていました。

問題となっているのは、単なる業務怠慢ではなく、実際には勤務地に不在であるにもかかわらず、勤務したことにして給与を得ている可能性が高い状況でした。X社にとって、これは単なる内部の労務問題にとどまらず、クライアントであるY社との信頼関係にも関わる重大な問題です。そこで当社に依頼があり、A氏の実際の勤務実態を確認するための素行調査を実施することになりました。

勤怠不正の疑いと初期兆候

調査依頼に至った具体的な兆候としては、以下の点が挙げられました:

  • タイムカードの打刻記録と社内セキュリティシステムのアクセスログの不一致
  • 同僚からの「姿を見かけない時間帯がある」という報告
  • 業務成果の極端な低下(前年同期比約40%減)
  • 昼食時に社員食堂の利用記録がほぼない(キャッシュレス決済システム導入のため確認可能)
  • 社内会議への遅刻や欠席が増加

これらの兆候から、A氏が何らかの方法でタイムカードの不正打刻を行い、実際には勤務していない時間について勤務したことにしている可能性が疑われました。X社としては、事実確認と共に、もし不正が確認された場合の具体的な対応方針も検討する必要がありました。

2. 調査の進め方

実施した調査手法

当社では、勤怠不正の実態を確認するため、以下の調査手法を組み合わせて実施しました:

行動観察調査

  • 朝の出勤時および夕方の退勤時の動向確認(1週間連続実施)
  • 勤務時間中の外出状況の確認(抜き打ちで3日間実施)
  • 昼休憩時間の行動パターン観察
  • Y社オフィスビル周辺の定点観測

調査員は、A氏の自宅最寄り駅、通勤経路、Y社オフィスビル周辺など、公共の場所での観察にとどめ、プライバシーを侵害しない範囲で調査を行いました。特に、タイムカード打刻前後の行動と、勤務時間中の所在確認に重点を置きました。

周辺調査

  • A氏の勤務状況に関するY社社員からの情報収集(間接的な聞き込み)
  • A氏の勤務日におけるY社ビル周辺施設(カフェ、ショッピングモールなど)の利用確認
  • A氏のSNSなど公開情報の確認(勤務時間中の投稿有無など)

証拠収集のポイント

勤怠不正調査において最も重要なのは、客観的な証拠の収集です。当社では以下のポイントに留意して証拠を収集しました:

  • 日時情報の正確な記録(タイムスタンプ付き写真撮影)
  • 連続性のある行動証拠の確保(断片的でなく、一連の流れがわかる記録)
  • 公共の場所からの撮影のみに限定(法的問題の回避)
  • 第三者証言の記録(メモや録音ではなく、調査員の報告書形式)
  • 客観的事実のみの記録(主観や推測の排除)

特に勤怠不正の立証においては、「不在の証明」が技術的に難しい面があります。そのため、タイムカード打刻時間と実際の行動の不一致を明確に示すことを重視しました。例えば、タイムカードの記録上は勤務中であるにもかかわらず、別の場所で過ごしている決定的な証拠の収集を目指しました。

3. 調査で判明した事実

勤怠不正の実態と手口

2週間にわたる調査の結果、A氏の勤怠不正の実態が明らかになりました。以下が主な調査結果です:

不正打刻の手法

A氏は次のような方法で勤怠不正を行っていたことが判明しました:

  • 朝は実際に出社し、タイムカードを打刻
  • その後、約1時間程度社内で過ごした後、Y社のセキュリティゲートを通過して外出
  • 昼食前に一度戻り、昼休憩の形で再び外出
  • 夕方の定時前に再度出社し、退勤の打刻を実施

調査期間中の7営業日のうち、5日間でこのパターンが確認されました。残りの2日間は終日オフィスにいる様子が観察されました。特に注目すべきは、A氏が外出中に主に何をしていたかという点です。調査の結果、A氏は別の会社Z社のオフィスビルに出入りしている様子が確認されました。Z社はX社やY社と業界は異なるものの、A氏が副業として関わっている可能性が高いと判断されました。

不在時の対応策

A氏は不在時の対策として、以下のような方法を取っていたことも明らかになりました:

  • 社内メールへの自動返信設定を利用し、「会議中」「資料作成中」などの状態表示
  • 同僚への「外部打ち合わせ」「資料収集」などの口実を予め伝えておく
  • 会社支給のスマートフォンを常に携帯し、連絡には迅速に対応
  • 定期的にY社のVPNにリモート接続し、オンライン状態を維持

不正行為の頻度と影響

A氏の勤怠不正について、頻度と影響を分析した結果は以下の通りです:

不正の頻度

  • 週に3〜4日の頻度で勤務時間の約半分(3〜4時間)が不在
  • 特に月曜と金曜に不正が集中(中間の火〜木曜は比較的まじめに勤務)
  • 不正開始時期は約3ヶ月前と推定(Y社システムのアクセスログ分析から)

企業への影響

  • Y社の業務進行の遅延(A氏担当プロジェクトの遅れ)
  • 同僚への負担増加(A氏不在時のフォロー対応)
  • X社の信用低下(Y社からの評価悪化)
  • 経済的損失(不正取得した給与総額は約90万円と試算)

特に懸念されたのは、A氏がZ社で行っていた業務がY社の競合領域に関わる可能性があることでした。これは単なる勤怠不正の問題を超え、競業避止義務違反や情報漏洩リスクにも発展しかねない状況でした。

4. 解決策と対応

企業が取った措置

調査結果を受け、X社は以下の対応を実施しました:

  • A氏への事実確認面談の実施(調査結果を基にした具体的な質問)
  • Y社への状況説明と謝罪(透明性を持った情報共有)
  • A氏の配置転換(Y社からの引き上げ)
  • 不正取得給与の返還要請
  • 全社的な勤怠管理体制の見直し(再発防止策の実施)

特筆すべきは、X社が法的措置ではなく、話し合いによる解決を選択した点です。これには「派遣社員の勤務管理に対するX社の監督責任も問われうる」という側面と、「問題の長期化によるY社との関係悪化を避けたい」という実務的判断がありました。

当事者との話し合い

A氏との話し合いでは、以下の点が合意されました:

  • A氏は不正行為を認め、書面で反省文を提出
  • 不正取得した給与相当額を12ヶ月の分割払いで返還
  • X社内での配置転換に同意(事務所勤務への変更)
  • Z社での活動を即時中止し、競業避止義務を再確認

A氏との面談では、勤怠不正に至った背景として「家計の逼迫」「スキルアップのための副業」という事情も明らかになりました。X社はこれらの事情を考慮しつつも、コンプライアンス違反の重大性を明確に伝え、再発防止の誓約書にも署名を求めました。

Y社との話し合いでは、X社の誠実な対応が評価され、取引関係の継続が決定しました。ただし、今後の派遣社員の勤務管理について、より厳格な報告体制を構築することが条件となりました。

5. 事例から学ぶ教訓

勤怠不正を見抜くポイント

本調査事例から、企業が勤怠不正を早期に発見するためのポイントとして以下が挙げられます:

  • 打刻記録と実績の乖離に注目する:タイムカードの記録と実際の業務成果が合致しない場合、不正の可能性を疑うべきです
  • 複数のログ記録を照合する:タイムカード、セキュリティゲート、社内システムアクセス、食堂利用など、複数のデータを横断的に分析することで不自然な点が浮かび上がります
  • 同僚や上司からの声に耳を傾ける:「姿が見えない」「連絡が取りにくい」などの声は、単なる噂ではなく重要なシグナルである可能性があります
  • 業務パターンの変化に敏感になる:急激な業務効率の低下や、特定の曜日・時間帯に集中する不在などのパターンは注視すべきです
  • コミュニケーションの質の変化:報告内容が抽象的になる、会議での発言が減る、質問への回答が曖昧になるなどの変化も不正のサインかもしれません

効果的な予防策

勤怠不正を未然に防ぐために、企業が取り組むべき対策としては以下が有効です:

  • 生体認証システムの導入:指紋や顔認証などの生体情報を活用した打刻システムは、代理打刻などの不正を防止します
  • 位置情報と連動した勤怠管理:社内LANや専用アプリと連動した勤怠システムにより、実際の所在と打刻の一致を確認できます
  • 定期的な勤務実態調査:抜き打ちでの在席確認や業務報告の詳細化により、不正の抑止効果が期待できます
  • 管理職の意識向上:現場管理者が部下の勤務実態を適切に把握するための研修や評価基準の見直しが重要です
  • 労働環境の改善:副業ニーズや経済的課題に対応するための制度設計(正規の副業制度、給与前払い制度など)も検討すべきでしょう
  • コンプライアンス教育の強化:勤怠不正の影響や責任の重さについて、定期的な教育を行うことが効果的です

本事例は、単なる勤怠管理の問題にとどまらず、現代の働き方の多様化に伴う課題も示しています。企業は制度や技術による不正防止策と共に、従業員のニーズや課題にも目を向けた総合的なアプローチが求められるでしょう。

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ご相談・お見積り

勤怠不正の調査や労務問題でお悩みの企業様は、ブエナヴィーダ株式会社までお気軽にご相談ください。初回相談は無料で承っております。当社の調査員は豊富な実績と専門知識を持ち、法令遵守の範囲内で最適な調査計画をご提案いたします。

関連サービスのご案内

  • 勤怠不正調査パッケージ(行動観察、データ分析、報告書作成)
著者プロフィール:Y.Tさん

本記事の監修者

田中代表の顔写真

田中代表

代表取締役社長

ブエナヴィーダ株式会社

資格・専門性

  • 公認システム監査人(CSA)試験合格
  • 公認不正検査士(CFE)試験合格

経歴

  • 内部監査室室長
  • 外務省在外公館専門調査員

代表の田中は、企業の内部監査室室長として社員の不正等を監査し、また、外務省在外公館専門調査員として外国公務員贈賄防止等に尽力した経験を持つ専門家です。

現在は、ブエナヴィーダ株式会社の代表として、その豊富な経験と専門知識を活かし、社内不正調査業務を指揮しています。

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