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病気休職中の従業員の実態調査

病気休職中の従業員の実態調査:適切な調査方法と法的配慮

1. 事例の概要

実態調査依頼の背景

中部地方に本社を置く製造業F社から当社へ相談がありました。F社の営業部に所属するD氏(40代男性)が、うつ病を理由に3ヶ月前から休職していましたが、休職期間中の行動に関して複数の疑念が生じていたのです。具体的には、D氏がSNSに旅行写真を投稿していたり、別の会社で働いている姿を目撃したという情報が社内に寄せられていました。

F社の人事部では、D氏が提出した診断書の内容(重度のうつ病による就労不能)と、報告されている行動に矛盾を感じ、休職制度の悪用や虚偽申告の可能性を疑いました。一方で、メンタルヘルス不調は外見からは判断しづらく、誤った対応は労使トラブルや企業イメージの低下につながる可能性もあります。

こうした状況から、F社は実態把握と適切な対応のため、当社に病気休職中のD氏の行動調査を依頼しました。ただし、プライバシーの尊重や法的リスクを考慮した慎重な調査が求められていました。

依頼企業の具体的な懸念点

F社が抱えていた主な懸念点は以下の通りでした:

  • D氏の病状と行動の整合性(診断書の内容と実際の活動状況の乖離)
  • 就業規則に定められた休職制度の悪用可能性
  • 休職給付金の不正受給の疑い
  • 在職中に副業(二重就労)を行っている可能性
  • 復職可能性の見極めと適切な対応策の検討
  • 他の従業員への悪影響(公平性の観点から)

F社としては、単にD氏の行動を監視することが目的ではなく、事実を正確に把握した上で、会社と従業員双方にとって適切な対応を検討したいという意向を示していました。調査にあたっては、プライバシー侵害や風評被害のリスクも考慮し、慎重なアプローチが求められました。

2. 調査の進め方

病気休職者調査の特徴と配慮事項

病気休職中の従業員調査は、一般的な素行調査とは異なる特有の難しさがあります。当社では以下の点に特に配慮して調査計画を立案しました:

  • 医療的・法的知識の重要性:メンタルヘルス不調の特性(外見と実態の乖離など)を理解した上での判断
  • プライバシー権との均衡:調査の必要性と個人のプライバシー保護のバランス
  • 誤った判断のリスク:外見だけで病状を判断することの危険性
  • 風評被害の防止:調査対象者の名誉や社会的評価を不当に害さないための配慮
  • 証拠の客観性:主観や推測ではなく、事実に基づいた客観的な証拠収集

これらの配慮事項を踏まえ、調査は必要最小限の範囲にとどめ、法的・倫理的に問題のない方法で実施することを基本方針としました。

実施した調査手法

当社では、下記の調査手法を組み合わせてD氏の実態調査を行いました:

オープンソース情報調査

  • SNS(Facebook、Instagram、Twitter等)の公開投稿内容の確認
  • プロフェッショナルネットワーク(LinkedIn等)での活動状況
  • オンラインフォーラムやコミュニティでの発言・活動
  • 公開されているブログやウェブサイトの投稿内容

行動調査(公共の場所のみ)

  • 定期的な外出パターンの確認(頻度、時間帯、目的地の種類)
  • 社会活動の様子(買い物、外食、レジャー活動など)
  • 就労の有無または就労に準ずる活動の確認
  • 病院への通院状況の確認(診断書との整合性)

調査においては、以下の点を厳守しました:

  • プライベートな場所(自宅内部など)への侵入や盗撮は一切行わない
  • 通信の傍受や私的な会話の録音は行わない
  • 調査員が対象者に接触したり、第三者を装って情報を引き出したりしない
  • 医療機関内部での調査や医療情報の不正入手は行わない
  • 公共の場所での客観的な観察にとどめる

法的・倫理的配慮ポイント

病気休職者の調査においては特に以下の法的・倫理的観点に注意しました:

  • 個人情報保護法の遵守:収集する個人情報は利用目的の範囲内に限定
  • 労働関連法規の考慮:労働契約法など関連法規に照らした適法性の確認
  • 医療情報の慎重な取り扱い:病状に関する情報は特に配慮を要する個人情報として取扱い
  • 調査目的の正当性:「不正行為の防止・対応」という正当な目的に基づく必要最小限の調査
  • 比例原則の適用:調査の必要性と侵害される利益のバランスを常に考慮

これらの配慮により、調査の法的リスクを最小化しながら、必要な事実確認を行うことを目指しました。また、調査結果の報告においても推測や憶測を避け、客観的に観察された事実のみを伝えることに留意しました。

3. 調査で判明した事実

生活実態と行動パターン

約2週間の調査期間を通じて、D氏の行動パターンについて以下の事実が確認されました:

日常生活の状況

  • 平日の日中(9時〜17時頃)は概ね外出している様子
  • 週に3日程度、同じ時間帯に特定のオフィスビルへ出入り
  • 外出時の服装は一般的なビジネスカジュアル
  • 表情や歩行の様子に著しい異常は見られない
  • 飲食店での会食や商業施設での買い物も確認
  • 週末には家族と共に旅行やレジャー施設への外出

SNS等の活動状況

  • 個人のSNSアカウントでは旅行の写真や飲食の投稿を定期的に更新
  • ビジネス系SNSでは「フリーランスコンサルタント」として近況を更新
  • 業界フォーラムにて専門的な質問への回答や情報提供を活発に実施
  • 病状や治療に関する言及はほとんど見られない

就労の可能性

調査の結果、D氏が定期的に出入りしていたオフィスビルには、F社の競合にあたるコンサルティング会社G社のオフィスがあることが確認されました。また、以下の状況から何らかの就労または就労に準ずる活動を行っている可能性が高いと判断されました:

  • 勤務時間に相当する時間帯(9時〜17時)の規則的な出入り
  • ビジネス書類と思われるカバンの携行
  • G社社員と思われる人物との打ち合わせや昼食の様子
  • ビジネス系SNSでの「コンサルタント」としての自己紹介と活動報告
  • 業界専門サイトでのG社関連プロジェクトについての言及

診断内容との整合性

D氏から提出された診断書には「重度のうつ病により就労困難」との記載があり、「外出も難しい状況」と説明されていました。調査で確認された行動パターンとの整合性を検討した結果、以下の点が指摘できます:

  • 活動性の相違:診断書の内容と比較して、実際の活動量や社会参加の度合いが著しく高い
  • 就労能力の矛盾:F社での就労は困難とする一方で、他社での就労に準ずる活動を行っている可能性
  • 症状の外見的不一致:重度うつ病に典型的な意欲低下や活動量減少などの外見的特徴が乏しい
  • 社会的交流の活発さ:SNSの活動や対人交流が活発で、社会的引きこもりの傾向が見られない

ただし、医学的観点からは外見だけでメンタルヘルス状態を判断することは困難であり、症状の波や、特定の環境・人間関係にのみ反応する状態像も存在することに留意が必要です。そのため、調査結果はあくまで「観察された客観的事実」の報告にとどめ、医学的判断については専門家に委ねるべきものとしました。

4. 解決策と対応

事実確認の進め方

調査結果を踏まえ、F社に対して以下の事実確認プロセスを提案しました:

  • 産業医との連携:調査で得られた情報を産業医に提供し、医学的見地からの評価を依頼
  • 主治医との情報共有:従業員の同意を得た上で、主治医へ情報提供と見解の確認
  • 本人との面談:非難や追及ではなく、状況確認と今後の方針を相談する形での面談設定
  • 法務部門や顧問弁護士との相談:対応の法的リスクと選択肢の検討
  • 客観的証拠の整理:プライバシーに配慮しつつ、必要な証拠を適切に保全

特に重要なのは、事実確認を焦らず、法的・医学的な専門家の意見を踏まえた上で対応することです。早計な判断や感情的な対応は、後の労使紛争リスクを高める可能性があります。

企業が取り得る対応選択肢

F社が取り得る対応として、以下の選択肢を提示しました:

休職制度の見直しと適用

  • 就業規則における休職中の遵守事項の明確化
  • 定期的な状況報告の仕組み導入
  • 復職支援プログラムの提案
  • 休職期間満了に向けた計画的な対応準備

二重就労が確認された場合の対応

  • 就業規則や誓約書等の関連規定の確認
  • 事実確認と弁明機会の提供(適正手続きの確保)
  • 厳重注意から懲戒処分までの段階的対応の検討
  • 休職給付金の返還請求の可否検討

復職支援と再発防止

  • 現状に応じた復職判定と段階的復職プランの作成
  • 職場環境調整やサポート体制の構築
  • 産業医や外部専門家と連携した支援体制の整備
  • 管理職向けメンタルヘルス研修の実施

最終的にF社は、まず産業医との連携により医学的見地からの評価を行った上で、D氏本人との面談を設定し、状況確認を行うアプローチを選択しました。面談ではD氏も現状を一部認め、休職制度の適用継続が難しい状況を理解したため、円満退職という形で合意に至りました。法的紛争に発展することなく、双方にとって納得できる形での解決が実現しました。

5. 事例から学ぶ教訓

病気休職者調査のポイント

本事例から得られる病気休職者調査における重要ポイントは以下の通りです:

  • 調査目的の明確化:単なる「不正」の発見ではなく、適切な支援や公平な制度運用のための事実確認という位置づけ
  • プライバシーへの最大限の配慮:必要最小限の調査にとどめ、私生活の核心部分には踏み込まない
  • 医学的・法的知識との連携:調査結果の解釈において専門家の見解を重視
  • 証拠の客観性と適切な記録:主観や憶測を排除し、観察された事実を正確に記録
  • 調査対象者の尊厳尊重:病気や障害への偏見なく、人としての尊厳を常に尊重する姿勢

休職制度の適切な運用のために

病気休職制度の適切な運用と不正防止のために企業が検討すべき対策としては、以下の点が挙げられます:

  • 休職制度の明確化:就業規則や休職規程における権利・義務の明確な定義
  • 診断書の適切な取り扱い:必要に応じて産業医との連携や追加情報の収集
  • 定期的な状況確認の仕組み:面談や報告書など、適切な頻度と方法での状況把握
  • 復職支援プログラムの整備:段階的な復職や試し出勤など、円滑な職場復帰の支援
  • 管理職向け教育:メンタルヘルスの基礎知識と適切な対応方法の周知
  • 相談窓口の設置:従業員が気軽に相談できる環境づくり
  • 副業規定の整備:休職中の就労に関する明確なルール設定

重要なのは、制度の悪用防止と真に支援が必要な従業員への適切なケアのバランスです。過度に厳格な管理は従業員の信頼を損ない、必要な時に休職制度を利用できない風土を生みかねません。一方、適切な管理体制がなければ、一部の悪用事例が制度全体の信頼性を損なう結果となります。

病気休職制度は、従業員の健康回復と企業の持続的成長の両立を目指すものであり、相互信頼に基づく運用が理想的です。そのためには、明確なルールと丁寧なコミュニケーション、専門家との連携、そして個々の事例に応じた柔軟な対応が求められます。

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  • 病気休職者実態調査(法的リスク最小化型)
著者プロフィール:調査責任者:森下

本記事の監修者

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森下

調査責任者

ブエナヴィーダ株式会社

専門性

  • 探偵業30年
  • 社内不正調査年間100件以上

経歴

  • 大手探偵事務所勤務
  • ブエナヴィーダ株式会社にJoin

森下は、大手単事務所に20年以上勤務していた専門家です。ブエナヴィーダ株式会社では調査責任者として指揮しています。

社内不正調査については、その専門性を活かして年間100件以上を指揮しています。

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