副業活動と社内調査:効果的なリスク対策と適切な調査手法
はじめに:多様化する副業と企業が直面する課題
働き方改革の推進や価値観の多様化により、副業・兼業を行う従業員が急増しています。厚生労働省の調査によれば、副業を行う労働者は2019年から2022年の間に約1.5倍に増加し、特にIT・クリエイティブ職での副業率は30%を超えるとされています。政府も「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、原則として副業を認める方向性を示しています。
一方で、企業側は副業に伴うさまざまなリスクに直面しています。競業避止義務違反、情報漏洩、本業へのパフォーマンス低下、長時間労働による健康被害など、適切な管理体制がなければ企業にとって大きな損失につながる可能性があります。特に、自社の機密情報や営業秘密を扱う従業員の副業活動は、慎重な対応が求められます。
本コラムでは、副業活動に関連する法的側面、企業が取るべき対策、適切な社内調査の手法について詳しく解説します。企業の競争力を維持しながら、従業員の多様な働き方を支援するためのバランスの取れたアプローチを考えていきましょう。
副業に関する法的枠組みと最新動向
労働法からみた副業規制の現状
従来、多くの企業では就業規則で副業・兼業を原則禁止としてきました。しかし、2018年に改定された「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、企業は原則として副業・兼業を認める方向で検討することが推奨されています。完全禁止ではなく、「情報漏洩のリスクがある場合」「長時間労働によって本業に支障が出る場合」など、限定的な理由による制限が適切とされています。
法的観点からは、労働契約法3条4項で「労働者は、労働契約に基づく権利を行使するために必要な情報を使用者に求めることができる」とされており、副業禁止の合理的理由を労働者が求めた場合、企業側は説明責任を負います。また、民法上の「信義則」や「権利濫用の禁止」の観点からも、合理的理由のない包括的な副業禁止は有効性が疑問視される可能性があります。
裁判例から見る副業規制の有効性
副業に関する裁判例では、企業の副業規制の有効性は以下の要素を総合的に判断する傾向にあります:
1) 本業との関連性・競業性:本業との関連が薄い副業(例:システムエンジニアの休日カメラマン活動)は規制が難しい一方、競合他社や類似事業への関与は規制が認められやすい傾向にあります。
2) 労働時間・健康への影響:過重労働につながる副業は、労働安全衛生法の観点からも規制が合理的とされます。
3) 情報漏洩リスク:企業の営業秘密や顧客情報を扱う従業員の副業は、不正競争防止法の観点からも制限が正当化されやすいでしょう。
諸外国の副業規制との比較
諸外国と比較すると、日本の副業規制は依然として厳しい側面があります。欧米では「勤務時間外は労働者の自由時間」という考え方が強く、特に競業避止義務に違反しない限り副業を制限することは少ないとされています。ドイツでは副業は原則自由であり、本業との競合や労働時間制限に抵触する場合にのみ制限可能とされています。
アジア諸国でも、シンガポールやマレーシアでは副業規制は比較的緩やかで、特に異なる業種での副業は広く認められています。こうした国際的な動向も踏まえ、日本企業も合理的な範囲内での副業容認へと方針を転換する傾向が強まっています。
企業が直面する副業関連リスクと対策
主要なリスクカテゴリー
企業が従業員の副業に関して直面する主なリスクは以下の通りです:
1. 情報セキュリティリスク:営業秘密や顧客情報、知的財産の漏洩リスクです。特に、同業他社や類似事業での副業は、意図せず情報漏洩につながる可能性があります。たとえば、エンジニアが副業で類似のシステム開発を行う場合、アルゴリズムや設計思想などの無意識的な流用が起こりえます。
2. 競業避止義務違反リスク:直接的な競合企業での副業や、競合サービスの立ち上げなどによるリスクです。特に管理職や専門性の高い従業員の場合、企業の核心的な競争力に関わる情報を持ち出すリスクが高まります。
3. 労務管理リスク:長時間労働や過重労働による健康被害、本業へのパフォーマンス低下などのリスクです。副業による疲労が本業の生産性低下や事故、品質問題につながる可能性もあります。
4. コンプライアンスリスク:副業先での法令違反や不適切行為が本業の企業イメージを損なうリスクです。SNSの普及により、従業員の副業活動と本業の関連性が外部から容易に特定される時代となっています。
効果的な副業管理体制の構築
これらのリスクに対処するため、企業は以下のような体制整備が求められます:
1. 明確な副業ポリシーの策定:原則禁止ではなく、「申請・届出制」を基本としたポリシーが望ましいでしょう。その際、禁止される副業の具体例(競合他社での就労、同業種での起業など)と、認められる副業の範囲を明確に示すことが重要です。
2. 適切な申請・審査プロセスの確立:副業の内容、予定時間、期間などを申請する標準フォームと、審査基準の明確化が必要です。審査は人事部門だけでなく、情報セキュリティ部門や法務部門も関与する横断的な体制が効果的です。
3. 情報セキュリティ対策の強化:副業を行う従業員に対する特別な情報セキュリティ教育や、アクセス権限の適切な設定、定期的なリスク評価などが重要です。クラウドサービスの利用ルールや私物デバイスの業務利用(BYOD)ポリシーも明確にしておくべきでしょう。
4. 労働時間管理の徹底:副業を含めた総労働時間のモニタリングと、過重労働の防止策が必要です。副業を行う従業員との定期面談や、健康状態のチェックも有効です。
副業容認の戦略的メリットの活用
一方で、適切に管理された副業には企業にとっての戦略的メリットも存在します:
1. 人材獲得・定着の優位性:副業を容認する企業は、特に若手人材や専門性の高い人材の獲得・定着において優位性があります。リクルートの調査によれば、20代の約70%が「副業可能な企業で働きたい」と回答しています。
2. スキル・知見の拡大:副業経験を通じて従業員が獲得した新たなスキルや人脈、市場知識は、本業にも良い影響を与える可能性があります。特に、異業種での副業経験は革新的なアイデアの源泉となりえます。
3. 起業家精神の醸成:副業として小規模なビジネスを展開する経験は、従業員の経営感覚や顧客志向を高め、社内イノベーションにつながる可能性があります。
こうしたメリットを最大化しつつリスクを最小化するためには、単なる「禁止」や「容認」ではなく、企業の状況に応じたバランスの取れた副業管理体制の構築が求められます。
副業活動に関する社内調査の適切な手法
調査が必要となる状況と兆候
どのような場合に副業に関する社内調査が必要となるのでしょうか。以下のような兆候や状況が調査の契機となることが多いようです:
1. パフォーマンスや勤怠の変化:突然の業務パフォーマンスの低下、遅刻・早退の増加、日中の極端な疲労感の表出などは、過度な副業活動の兆候かもしれません。
2. 情報アクセスパターンの変化:業務上必要のない情報への不自然なアクセスや、大量のデータダウンロード、通常とは異なる時間帯での社内システムへのアクセスなどは注意が必要です。
3. 外部からの情報提供:取引先や同業他社から、従業員の副業活動に関する情報提供があった場合は、事実確認が必要でしょう。
4. SNSや公開情報での活動確認:従業員のSNSや副業マッチングプラットフォームでの活動が、無許可の副業を示唆している場合も調査の対象となります。
ただし、些細な兆候だけで即座に調査を開始するのではなく、複数の兆候が重なる場合や、明らかなリスクが想定される場合に限定すべきでしょう。不必要な調査は従業員との信頼関係を損なう可能性があります。
プライバシーに配慮した調査アプローチ
社内調査を行う際には、従業員のプライバシー権と企業の正当な利益保護のバランスが重要です。以下のアプローチが推奨されます:
1. 段階的な調査プロセス:まずは公開情報の確認や一般的な業務状況の確認から始め、具体的な疑いが強まった場合にのみより踏み込んだ調査を行うべきです。
2. 透明性の確保:調査の目的、範囲、方法については、可能な限り事前に社内ポリシーとして明確化し、従業員に周知しておくことが重要です。突然の「秘密調査」は信頼関係を損なう可能性があります。
3. 適切な承認プロセス:調査開始には、人事部門や法務部門、場合によっては経営層の承認を必要とするプロセスを確立すべきです。特定の管理者の判断だけで調査が開始されるべきではありません。
4. 調査範囲の限定:調査は目的達成に必要な最小限の範囲にとどめるべきです。例えば、社内メールの調査が必要な場合も、特定のキーワードや期間に限定するなどの配慮が必要です。
具体的な調査手法とその留意点
副業活動の社内調査で用いられる主な手法と、それぞれの留意点は以下の通りです:
1. 公開情報調査:SNS、副業マッチングサイト、ブログなどの公開情報の確認は、比較的プライバシー侵害のリスクが低い調査手法です。ただし、個人的なSNSアカウントであっても、企業との関係が公開されている場合には調査対象となりえます。
2. 社内システムログの分析:業務システムへのアクセスログ、メール送受信記録、ファイルダウンロード履歴などの分析は有効ですが、事前に就業規則等でモニタリングの可能性を明示しておくことが重要です。また、プライベートな内容と業務内容を明確に区別する必要があります。
3. 同僚・取引先からの情報収集:同僚や取引先からの情報は貴重な手がかりとなりますが、噂やヒアリングだけで結論を出すのではなく、客観的証拠と組み合わせることが重要です。また、調査対象者のプライバシーや名誉を不当に侵害しないよう、情報収集の方法や範囲には細心の注意が必要です。
4. 面談・ヒアリング:最終的には本人との面談が有効ですが、その際は「取り調べ」のような威圧的な姿勢ではなく、事実確認を目的とした冷静な対話を心がけるべきです。また、面談の際は複数人で対応し、記録を残すことも重要です。
なお、従業員の私生活や私物(私用のスマートフォンやPCなど)に対する直接的な調査は、特別な事情がない限り避けるべきです。こうした調査は、プライバシー侵害やハラスメントとみなされるリスクが高いためです。
副業違反が発覚した場合の適切な対応
事実確認と影響評価
無許可の副業や禁止されている副業活動が発覚した場合、まず冷静な事実確認と影響評価が必要です:
1. 詳細な事実確認:副業の内容、期間、規模、関与度合いなどを詳細に確認します。特に、競業性の有無、機密情報の利用可能性、労働時間への影響などは重点的に確認すべき事項です。
2. 企業への影響評価:実際に発生した、または発生し得る影響を多角的に評価します。情報漏洩の有無、業務パフォーマンスへの影響、法令違反リスク、企業イメージへの影響など、具体的な影響を客観的に評価することが重要です。
3. 背景・動機の理解:なぜ従業員が無許可で副業を行ったのか、その背景や動機を理解することも、適切な対応を検討する上で重要です。単なる規則違反という視点だけでなく、収入面の課題や自己実現の欲求など、根本的な要因を把握することで、より効果的な再発防止策を検討できます。
ケース別の対応アプローチ
副業違反の性質や影響に応じて、以下のようなアプローチが考えられます:
1. 軽微な違反の場合:本業への影響が小さく、競業性もない場合は、正式な申請・承認プロセスへの移行を促すことが適切でしょう。例えば、「副業自体は問題ないが、事前申請が必要だった」というケースでは、厳しい処分よりも適切な手続きの教育が効果的です。
2. 中程度の違反の場合:一定の本業への影響があるが、意図的な隠蔽や悪意がない場合は、副業の制限や条件付き容認などの対応が考えられます。例えば、「労働時間が長すぎる」という問題であれば、副業時間の制限を設けるなどの対応が可能です。
3. 重大な違反の場合:明らかな競業避止義務違反や情報漏洩を伴う場合、または繰り返しの違反行為がある場合は、副業の即時中止を求めるとともに、懲戒処分を検討する必要があるでしょう。特に、管理職や機密情報へのアクセス権を持つ従業員による重大な違反は、厳格な対応が求められます。
いずれの場合も、一方的な処分だけでなく、対話を通じた相互理解と改善策の検討が重要です。また、同様のケースで異なる対応とならないよう、社内での対応の一貫性を確保することも重要です。
再発防止策の検討
個別ケースへの対応と並行して、組織全体としての再発防止策も検討すべきです:
1. 副業ポリシーの見直し:違反が多発する場合は、現行ポリシーが実態に合っていない可能性があります。禁止事項の明確化や申請プロセスの簡素化など、実効性のあるポリシーへの改定を検討しましょう。
2. 教育・啓発活動の強化:多くの違反は、ルールの不知や誤解から生じています。定期的な研修や事例共有を通じて、副業に関する正しい理解を促進することが重要です。
3. 申請・承認プロセスの改善:煩雑な申請手続きが違反の誘因となっている場合は、オンラインフォームの導入や審査期間の短縮など、プロセスの効率化を図るべきでしょう。
4. 定期的なモニタリングの実施:事後対応ではなく予防的アプローチとして、定期的な自己申告制度や、公開情報の定期チェックなど、持続可能なモニタリング体制の構築も重要です。
組織文化と制度設計:持続可能な副業管理に向けて
信頼ベースの組織文化構築
副業管理において最も重要なのは、監視と処罰に基づくアプローチではなく、相互信頼に基づく組織文化の構築です:
1. オープンなコミュニケーション:副業に関する従業員の希望や懸念を自由に話し合える風土を作ることが重要です。定期的な面談や匿名の意見収集などを通じて、実態把握と課題解決に取り組むべきでしょう。
2. 透明性のある基準と判断:副業の許可・不許可の判断基準を明確化し、判断結果とその理由を適切にフィードバックすることで、従業員の理解と納得を得ることができます。
3. 成果主義の評価体制:「どれだけ働いたか」ではなく「どれだけ成果を出したか」を重視する評価体制であれば、副業との両立もしやすくなります。明確なKPIと成果物に基づく評価は、副業容認の基盤となるでしょう。
先進企業の取り組み事例
副業管理において先進的な取り組みを行っている企業の事例から学ぶことも重要です:
サイボウズ株式会社:「週30時間勤務制度」を導入し、残りの時間は副業を含む自己裁量で活用できるようにしています。また、社内起業制度と組み合わせることで、副業で得たアイデアを本業に還元する仕組みも構築しています。
ヤフー株式会社:「社内副業制度」を導入し、部署を越えたプロジェクト参加を奨励しています。これにより、社外副業のノウハウやメリットを社内で実現しつつ、情報漏洩リスクも最小化しています。
富士通株式会社:副業申請システムをデジタル化し、承認までのリードタイムを大幅に短縮。また、副業経験を社内のキャリアアップにも活かせる仕組みを導入し、本業へのフィードバックを促進しています。
これらの事例に共通するのは、単なる「許可・不許可」の二元論ではなく、企業と従業員がWin-Winとなる創造的な制度設計を行っている点です。
持続可能な副業エコシステムの構築
最終的には、副業を単なるリスク要因ではなく、組織と個人の成長機会と捉える視点が重要です:
1. 副業経験の本業への還元:副業で得た知見やスキル、人脈を本業にも活かせる仕組みを整備することで、企業にとってもプラスの効果を生み出せます。定期的な「副業報告会」や「スキル共有セッション」などの機会を設けることも有効でしょう。
2. キャリア開発の一環としての位置づけ:副業を単なる「兼業」ではなく、従業員のスキル開発やキャリア構築の一環として位置づけることで、人材育成の観点からも価値を見出すことができます。
3. 定期的な制度・運用の見直し:働き方や市場環境は急速に変化しています。副業に関する制度や運用も、定期的に見直し、時代に合った形に更新していくことが重要です。従業員アンケートや外部専門家の意見も取り入れながら、継続的な改善を図るべきでしょう。
まとめ:バランスの取れた副業管理に向けて
副業活動と社内調査は、一見すると相反する概念のように思えますが、適切なバランスと相互理解があれば、企業と従業員双方にとって価値ある関係を構築できます。
重要なのは、「禁止と監視」ではなく「理解と適切な管理」のアプローチです。企業の正当な利益を守りながらも、従業員の自己実現や経済的ニーズにも配慮した、バランスの取れた副業ポリシーを構築することが、これからの企業に求められています。
また、社内調査が必要となる場合も、プライバシーへの配慮と透明性のある手続きを前提に、段階的かつ合理的なアプローチを取ることが重要です。不必要に厳格な調査や処分は、かえって組織内の信頼関係を損ない、隠れた違反を増やす結果となりかねません。
多様な働き方が広がる現代社会において、副業は「管理すべきリスク」であると同時に「活用すべき機会」でもあります。この二面性を理解し、創造的な制度設計と文化醸成に取り組むことが、企業の持続的な成長と従業員のエンゲージメント向上につながるでしょう。
当社では、副業管理体制の構築から社内調査の適切な実施まで、企業の状況に応じたトータルサポートを提供しています。まずは無料相談で、貴社の課題と最適な解決策についてご相談ください。
副業活動と社内調査:よくある質問(FAQ)
基本的な質問
副業の法的制限について
Q1: 副業を全面的に禁止することは法的に問題ないのでしょうか?
A1: 現在の法的動向では、合理的な理由なく全面的に副業を禁止することは、裁判で無効と判断されるリスクがあります。競業避止や情報漏洩リスク、長時間労働の防止など、具体的かつ合理的な理由に基づく制限にとどめることが望ましいでしょう。厚生労働省のガイドラインでも、原則として副業・兼業を認める方向で検討することが推奨されています。
副業申請の審査基準
Q2: 副業申請を審査する際、どのような基準で判断すべきでしょうか?
A2: 主に以下の観点から総合的に判断することが推奨されます:①本業との競合性(直接競合する事業かどうか)、②情報漏洩リスク(機密情報や顧客情報を扱う可能性)、③労働時間・健康影響(過重労働につながる可能性)、④コンプライアンスリスク(法令違反や企業イメージへの悪影響の可能性)。これらの基準を明文化し、従業員に事前に周知しておくことが重要です。
規模の小さい副業の取り扱い
Q3: 小規模なアフィリエイトやクラウドソーシングなどの副業も申請が必要ですか?
A3: 規模に関わらず、基本的には申請対象とすべきです。ただし、年間収入が一定額(例:20万円)以下の小規模副業については、簡易申請フォームで対応するなど、手続きを簡素化することも検討できます。重要なのは「申請が面倒だから無許可で行う」という状況を作らないことです。
調査と対応に関する質問
無許可副業の発見方法
Q4: 無許可の副業をどのように発見できますか?
A4: 一般的には、①公開情報の確認(SNS、副業マッチングサイト、メディア記事など)、②業務パフォーマンスの変化の観察、③社内システムの利用状況の分析(不自然なアクセスパターンなど)、④取引先や社外関係者からの情報提供、などから発見されるケースが多いです。ただし、プライバシーを不当に侵害するような調査手法は避けるべきです。
副業違反の調査手順
Q5: 副業違反の疑いがある場合、どのような調査プロセスが適切ですか?
A5: 段階的なアプローチが推奨されます。まず公開情報の確認や一般的な業務状況の確認から始め、具体的な疑いが強まった場合にのみ、社内システムログの分析や関係者へのヒアリングなどを行います。調査の各段階で適切な承認を得ること、対象者のプライバシーに十分配慮すること、調査範囲を必要最小限に抑えることが重要です。最終的には本人面談を行い、事実確認と状況把握を行うのが一般的です。
副業違反への対応レベル
Q6: 副業違反が発覚した場合、どのような対応が適切ですか?
A6: 違反の内容や影響に応じて対応レベルを変えるべきです。①軽微な違反(単純な申請漏れなど)は、申請手続きへの移行を促す、②中程度の違反(労働時間超過など)は、副業の制限や条件付き容認を検討する、③重大な違反(明らかな競業避止義務違反や情報漏洩)は、副業の即時中止と懲戒処分の検討が必要です。いずれの場合も一方的な処分ではなく、対話を通じた相互理解と改善策の検討が重要です。
特定業種・職種に関する質問
専門職の副業制限
Q7: 弁護士・会計士などの専門職従業員の副業については、特に注意すべき点はありますか?
A7: 専門職は業法や職業倫理によって副業制限がある場合があります。例えば企業内弁護士が外部で法律事務所を開業する場合は、利益相反がないか厳格に確認する必要があります。また、専門資格を持つ従業員は本業で得た専門知識と副業での知識の線引きが難しく、無意識的な情報流用のリスクも高いため、副業内容の詳細な確認と定期的なモニタリングが特に重要です。
研究開発職の副業制限
Q8: 研究開発職の従業員の副業には、どのような制限が必要ですか?
A8: 研究開発職は企業の中核的な知的財産に関わることが多いため、特に慎重な対応が必要です。競合企業や関連分野での副業は原則として制限し、特許や研究成果の帰属について明確な契約を結ぶことが重要です。一方で、学術活動(論文執筆、学会発表など)については、企業秘密を漏洩しない範囲で認めることが、人材確保の観点からも望ましいでしょう。内容を事前確認する審査プロセスと、定期的な報告制度を設けることが効果的です。
営業職の副業管理
Q9: 顧客情報を扱う営業職の副業管理で特に注意すべき点は何ですか?
A9: 営業職は顧客リストや価格戦略など重要な営業秘密に接する機会が多いため、特に競合他社や関連業界での副業には注意が必要です。また、本業の顧客に対して副業の営業活動を行うことは、利益相反になりやすいため原則として禁止すべきでしょう。副業申請時には、顧客との関係性や取扱う情報の重要度に応じて、より厳格な審査を行うことが望ましいです。また、顧客からの信頼・評価に影響する可能性がある副業(例:SNSでの情報発信など)についても、企業イメージとの整合性を確認することが重要です。
実務運用に関する質問
副業ポリシーの社内浸透
Q10: 副業ポリシーを効果的に社内に浸透させるには、どうすればよいでしょうか?
A10: 効果的な浸透策としては、①明確で具体的なポリシー文書の作成(禁止事項と許可基準を具体例付きで説明)、②全社員向けの説明会の実施(質疑応答の機会を設ける)、③管理職向けの詳細研修(部下からの相談対応方法など)、④イントラネットでのFAQや事例集の公開、⑤定期的なリマインド(年1回程度のポリシー再周知)などが挙げられます。特に入社時研修に組み込むことと、実際の申請・承認事例を匿名化して共有することが効果的です。
海外拠点の副業管理
Q11: グローバル企業として、海外拠点の従業員の副業管理はどうすべきですか?
A11: 各国の労働法制や文化的背景を考慮した柔軟なアプローチが必要です。グローバル共通の基本方針(競業避止や情報保護など普遍的な原則)を定めつつ、各国の法的要件に合わせたローカルポリシーを策定することが望ましいでしょう。特に欧米では副業の自由度が高く、アジア諸国でも国によって大きく異なるため、現地の法務専門家の助言を得ながら適切な制度設計を行うことが重要です。また、グローバル人材の異動に伴う副業の取扱いについても、事前に明確なルールを定めておくことが望ましいです。
副業の労働時間管理
Q12: 副業を行う従業員の労働時間管理はどのように行うべきですか?
A12: 労働安全衛生法の観点からも、本業と副業を合わせた総労働時間の適正管理は重要です。具体的な方法としては、①副業の予定労働時間の事前申告、②定期的(月次など)の実績報告、③本業の労働時間と合わせた総労働時間のモニタリング、④過重労働の兆候がある場合の面談実施、などが効果的です。ただし、プライベートな活動の過度な監視とならないよう、副業時間の自己申告制を基本としつつ、健康状態や本業のパフォーマンスをモニタリングする間接的なアプローチも組み合わせることが望ましいでしょう。
特殊なケースへの対応
社内での副業創出
Q13: 社外副業ではなく、社内で副業的な機会を創出する方法はありますか?
A13: 社内副業(または社内複業)の制度化は、情報漏洩リスクを最小化しながら副業のメリットを活かせる効果的なアプローチです。具体的な方法としては、①部署を越えたプロジェクト参加制度(週の一定時間を他部署の業務に充てられる制度)、②社内ジョブポスティング(短期・パートタイムの社内業務を募集する制度)、③イントラプレナーシップ制度(社内起業を支援する制度)、④スキルシェアリングプラットフォーム(社員間でスキルや知識を教え合う仕組み)などが挙げられます。これらは従業員のスキル開発やエンゲージメント向上にも効果的です。
副業人材の採用
Q14: 逆に、他社に本業がある人材を副業として採用する際の注意点は何ですか?
A14: 副業人材の採用では、①本業の企業での副業規定の確認(本人に確認書を提出してもらうなど)、②情報管理の徹底(本業の情報が流入しないよう明確に区分)、③適切な契約形態の選択(業務委託契約が一般的)、④労働時間・健康管理への配慮(過重労働を助長しない)、⑤成果物の著作権や知的財産権の明確化(契約書に明記)などが重要です。また、将来的な本採用(転職)の可能性も視野に入れた関係構築を検討することも有効でしょう。
副業からの起業支援
Q15: 従業員が副業から起業・独立するケースへの対応方針はどうあるべきですか?
A15: 副業から起業・独立は、単純に「人材流出」と捉えるのではなく、新たなビジネスパートナーの誕生と考えることも可能です。効果的なアプローチとしては、①卒業制度の導入(一定条件下で起業を支援する制度)、②出資・協業の検討(有望なビジネスには企業としての出資や協業を検討)、③オープンイノベーション戦略との連携(社外事業からの技術やサービスの導入)、④アルムナイネットワークの構築(独立後も関係を維持する仕組み)などが挙げられます。ただし、競業避止義務や情報保護については明確な合意を形成することが前提となります。
トラブル対応に関する質問
情報漏洩の疑いがある場合
Q16: 副業を通じた情報漏洩の疑いがある場合、どのように対応すべきですか?
A16: 情報漏洩の疑いがある場合は、迅速かつ慎重な対応が必要です。まず、①漏洩の可能性がある情報の特定と影響範囲の評価、②専門チーム(法務・情報セキュリティ・人事など)による調査の実施、③証拠の適切な保全(システムログ、メール、文書など)を行います。調査結果に基づき、④本人への事実確認と弁明の機会の提供、⑤法的対応の検討(差止請求、損害賠償請求など)、⑥再発防止策の策定と実施を進めます。なお、風評被害を防ぐため、調査段階では関係者に秘密保持を徹底させ、確定的な証拠がない限り拙速な判断は避けるべきです。
副業先とのトラブル
Q17: 従業員が副業先とトラブルになった場合、会社としてどう対応すべきですか?
A17: 基本的には従業員個人と副業先の問題ですが、会社のレピュテーションや本業への影響を考慮した対応が必要です。①事実関係の把握(従業員からのヒアリング)、②本業への影響評価(特に情報漏洩や評判リスク)、③必要に応じた法的アドバイスの提供(ただし代理交渉は避ける)を行います。トラブルの性質によっては、④副業の一時停止の要請、⑤本業との明確な区別を副業先に説明するよう従業員に助言、⑥再発防止のための副業ポリシーの見直しなども検討します。なお、従業員の副業活動は原則として私的活動であることを明確にしつつも、サポートが必要な場合は適切な範囲で支援することが、従業員のエンゲージメント維持の観点からも有効です。
労災発生時の対応
Q18: 副業中に労災が発生した場合、本業の企業としての対応や責任はどうなりますか?
A18: 副業中の労災は基本的に副業先の労災保険が適用されますが、副業が個人事業主として行われている場合は、従業員自身の加入する労災保険が適用されます。本業の企業としては直接的な責任は生じませんが、①副業申請時に労災保険の加入状況確認、②長時間労働防止のためのモニタリング、③健康管理面でのサポート提供などの予防的対応が重要です。また、副業中の労災が原因で本業のパフォーマンスに影響が出る場合の対応(休職制度の適用など)についても、事前に方針を定めておくことが望ましいでしょう。
最新動向に関する質問
テレワークと副業の関係
Q19: テレワークの普及に伴い、副業管理はどのように変化すべきですか?
A19: テレワークの普及により、時間や場所の境界が曖昧になり、副業管理の課題も変化しています。対応策としては、①成果ベースの評価体系への移行(労働時間よりも成果で評価)、②情報セキュリティ対策の強化(リモートアクセス環境での情報管理)、③オンラインでの副業申請・モニタリングプロセスの整備、④定期的なオンラインチェックインの実施(健康状態や業務状況の確認)などが重要です。また、テレワークにより自宅での副業と本業の境界が曖昧になりやすいため、時間管理や情報管理の方法について、より具体的なガイドラインを提供することも効果的です。
ギグワーカーとの関係
Q20: 正社員ではなく、契約社員やギグワーカーの副業についてはどう考えるべきですか?
A20: 非正規雇用者やギグワーカーに対しては、正社員よりも柔軟な副業ポリシーが適切です。雇用形態や契約形態に応じて、①業務委託契約者には競業避止や秘密保持の範囲を明確かつ必要最小限に限定、②契約社員には契約時間外の活動制限を最小化、③時短勤務者には副業申請の簡素化、などの対応が考えられます。ただし、情報保護や利益相反防止などの基本原則は雇用形態に関わらず適用し、特に重要情報へのアクセス権を持つ場合は、契約形態に関わらず適切な管理が必要です。将来的には「マルチジョブホルダー」を前提とした柔軟な雇用制度の検討も重要になるでしょう。
将来的な法改正の可能性
Q21: 副業に関する法規制は今後どのように変化する可能性がありますか?
A21: 働き方改革の流れを受けて、副業・兼業を促進する方向での法整備が進む可能性が高いと考えられます。具体的には、①労働時間通算制度の柔軟化(副業の労働時間管理の簡素化)、②社会保険制度の見直し(複数の事業所での加入を前提とした制度)、③租税制度の整備(副業収入の申告・納税の簡素化)などが検討される可能性があります。また、④競業避止義務の範囲や有効性についても、より明確なガイドラインが示される可能性があります。企業としては、これらの動向を注視しつつ、法改正に迅速に対応できる柔軟なポリシー設計を心がけることが重要です。
副業活動と社内調査に関するより詳細な情報や、貴社の状況に合わせた具体的なアドバイスが必要な場合は、当社の専門コンサルタントにお気軽にご相談ください。初回相談は無料で承っております。
本記事の監修者

森下
調査責任者
ブエナヴィーダ株式会社
専門性
- 探偵業30年
- 社内不正調査年間100件以上
経歴
- 大手探偵事務所勤務
- ブエナヴィーダ株式会社にJoin
森下は、大手単事務所に20年以上勤務していた専門家です。ブエナヴィーダ株式会社では調査責任者として指揮しています。
社内不正調査については、その専門性を活かして年間100件以上を指揮しています。