プロが教える「ヒアリング調査」の極意 | 社内不正を見抜くテクニック
企業にとって内部不正は大きな脅威です。情報漏洩、横領、不正会計、競合他社への機密情報流出など、社内不正は企業の存続すら揺るがす重大な問題となり得ます。このような不正を早期に発見し、適切に対処するためには、専門的な調査スキルが必要不可欠です。
三河探偵事務所では、長年にわたり企業の社内不正調査を手がけてきました。本記事では、当事務所の調査のプロフェッショナルが実践している「ヒアリング調査」のテクニックをご紹介します。これらのノウハウを活用することで、社内不正の兆候を早期に発見し、適切な対応につなげることができるでしょう。
社内不正の現状と課題
まず、社内不正の現状について把握しておくことが重要です。東京商工リサーチの調査によると、企業の約6割が過去5年間に何らかの社内不正を経験したと報告しています。その被害額は小規模なものから数億円規模まで様々ですが、金銭的損失だけでなく、企業の信用やブランド価値の毀損、従業員のモラル低下など、目に見えない損害も計り知れません。
社内不正の主な種類
社内不正には様々な種類がありますが、主に以下のようなものが挙げられます:
- 金銭的不正(横領、経費の不正請求、架空取引など)
- 情報漏洩(顧客情報、技術情報、営業秘密など)
- 就業規則違反(勤怠不正、兼業・副業の無断実施など)
- ハラスメント(パワハラ、セクハラ、モラハラなど)
- 背任行為(競合他社への協力、利益相反行為など)
社内不正が発生する背景
不正が発生する背景には、「機会」「動機」「正当化」という三つの要素(不正のトライアングル)が存在すると言われています。ヒアリング調査を効果的に行うためには、これらの要素を理解し、それぞれの視点から情報収集を行うことが重要です。
- 機会:内部統制の不備、チェック体制の弱さなど
- 動機:金銭的困窮、不満、恨み、競争心など
- 正当化:「みんなやっている」「会社に対する報復だ」などの自己正当化
プロの視点:社内不正は氷山の一角であることが多く、表面化した事例の背後には数倍の潜在的不正が隠れていると考えるべきです。早期発見のためには、日常的な観察と定期的なヒアリングが欠かせません。
ヒアリング調査の基本と重要性
ヒアリング調査とは、関係者から直接話を聞くことで情報を収集する調査手法です。書類や記録だけでは見えてこない真実を明らかにする上で、非常に重要な役割を果たします。
ヒアリング調査が有効な理由
- 非言語情報(表情、声のトーン、身振り手振りなど)から心理状態を読み取れる
- 質問を臨機応変に変更・追加でき、深掘りが可能
- 複数の証言を比較することで矛盾点を発見できる
- 書類には残らない情報やうわさ話などからも手がかりが得られる
ヒアリング調査の難しさ
一方で、ヒアリング調査には以下のような難しさも存在します:
- 関係者が虚偽の証言をする可能性がある
- 記憶違いや思い込みによる不正確な情報が混じる
- ヒアリングを行う側のバイアスが結果に影響する
- 関係者の感情や立場に配慮する必要がある
これらの難しさを克服し、効果的なヒアリングを行うためには、専門的なテクニックと経験が必要です。次章からは、具体的なヒアリングのテクニックについて解説します。
プロが実践する効果的なヒアリングの準備
効果的なヒアリングを行うためには、入念な準備が欠かせません。以下のステップに沿って準備を進めましょう。
事前情報の収集と分析
ヒアリングに入る前に、できるだけ多くの情報を収集しておくことが重要です。
- 関連する書類、記録、データの精査
- 組織図や人間関係の把握
- 過去の類似事案の調査
- 対象者のバックグラウンド情報(経歴、性格、評判など)
ヒアリング計画の立案
優先順位の決定
誰にどの順番でヒアリングを行うかは結果を大きく左右します。一般的には以下の順序が効果的です:
- 情報提供者(内部告発者など)
- 被害者や直接の目撃者
- 間接的な情報を持つ関係者
- 不正の疑いがある当事者
質問リストの作成
効率的にヒアリングを進めるためには、事前に質問リストを作成しておくことが重要です。
- 基本的な情報を確認する質問(5W1H)
- オープンクエスチョン(「どのように」「なぜ」など)
- クローズドクエスチョン(「はい」「いいえ」で答えられる質問)
- 確認のための質問(「〜ということですか?」など)
ヒアリング環境の設定
ヒアリングを行う場所や時間帯も重要な要素です。
- プライバシーが確保される静かな場所を選ぶ
- 録音機材や記録用具の準備(事前に相手の同意を得ること)
- 適切な時間枠の設定(疲労を考慮して1〜2時間程度)
- 座席配置の工夫(対立的にならないよう注意)
プロの視点:ヒアリングの成否は準備で8割が決まると言っても過言ではありません。特に初回のヒアリングでは、相手に与える印象が後々まで影響するため、細部まで計画を練っておくことが重要です。
信頼関係構築のためのコミュニケーション技術
ヒアリングで真実を引き出すためには、相手との信頼関係を構築することが不可欠です。以下のテクニックを活用しましょう。
ラポール形成のテクニック
ラポールとは、相互理解と信頼に基づく関係性のことです。以下の方法でラポールを形成します:
- 自己紹介と調査の目的の明確な説明
- 軽い雑談からスタートし、緊張をほぐす
- 相手の話に真摯に耳を傾ける姿勢を示す
- 共通点を見つけて会話に取り入れる
非言語コミュニケーションの活用
言葉だけでなく、以下のような非言語要素も意識的に活用します:
- 適切なアイコンタクト(凝視せず、自然に目を合わせる)
- うなずきや相づちで傾聴の姿勢を示す
- オープンな姿勢(腕組みなどの閉じた姿勢を避ける)
- 相手のペースや話し方に合わせる(ミラーリング)
心理的安全性の確保
相手が安心して話せる環境を作るために以下のポイントに注意します:
- 守秘義務と情報の取り扱いについて明確に説明
- 批判や非難をせず、中立的な立場を維持
- 相手のペースを尊重し、急かさない
- 感情的な反応に対して共感を示す
真実を引き出すための質問テクニック
効果的な質問は、ヒアリング調査の核心部分です。以下のテクニックを駆使して、真実に迫りましょう。
ファンネリング手法
広い質問から徐々に具体的な質問へと絞り込んでいく「ファンネリング」は、自然な流れで詳細情報を引き出すのに効果的です。
段階的な質問の例
- 「その日のオフィスの様子について教えてください」(広い質問)
- 「営業部のエリアではどんなことが起きていましたか?」(やや絞り込み)
- 「田中さんと佐藤さんが話しているのを見たとのことですが、何時頃でしたか?」(具体的)
- 「その会話の内容で覚えていることはありますか?」(詳細)
沈黙の活用
ヒアリングにおいて沈黙は強力なツールです。人は沈黙に耐えられず、追加情報を話してしまう傾向があります。
- 質問の後、3〜5秒間の沈黙を意識的に作る
- 相手が話した後も少し沈黙し、続きを促す
- 焦って次の質問に移らず、「待つ」姿勢を持つ
間接的アプローチ
デリケートな話題や不正の核心に関しては、直接的な質問ではなく間接的なアプローチが効果的です。
- 「同僚はその状況をどう見ていたと思いますか?」
- 「もし別の人がその場にいたら、何を見たと思いますか?」
- 「一般的にこのような状況では、どんなことが起こり得ると思いますか?」
矛盾点の指摘と確認
証言内の矛盾や、他の情報源との不一致を発見したら、以下のように確認します:
- 非難せず、事実確認として質問する
- 「先ほど〜とおっしゃいましたが、〜についてはどうでしょうか?」
- 「この点について再度確認させてください」と丁寧に切り出す
プロの視点:経験豊富な調査員は、相手の言葉だけでなく、言葉と行動の不一致、話題を変えようとする瞬間、感情の変化なども注意深く観察しています。これらの「違和感」が重要な手がかりになることが多いのです。
虚偽の証言を見抜くテクニック
不正調査においては、虚偽の証言を見抜く能力が非常に重要です。以下のサインに注意しましょう。
言語的サイン
虚偽の証言には以下のような言語的特徴が現れることがあります:
- 極端な表現の使用(「絶対に」「一度も」「100%」など)
- 質問の内容を繰り返して時間稼ぎをする
- 不自然に形式的で詳細な説明(過剰な情報提供)
- 逆に、曖昧で具体性に欠ける説明
- 三人称視点での説明(自分を主語にしない)
非言語的サイン
身体言語にも虚偽のサインが現れることがあります:
- 視線の不自然な動き(過度に目をそらす、あるいは凝視する)
- 微表情(一瞬だけ現れる本当の感情の表れ)
- 体の緊張や身体接触の増加(顔や首を触る、腕を組むなど)
- 声のトーンや速さの変化
ベースライン行動の観察
個人の「通常」の行動パターンを把握し、そこからの逸脱を見極めることが重要です:
- ヒアリング初期に中立的な質問で通常の反応を観察
- 特定の話題に触れたときの反応の変化に注目
- 複数回のヒアリングで一貫性を確認
認知的負荷を増やす質問
虚偽の証言は真実を話すよりも認知的負荷が高いという特性を利用します:
- 時系列を逆から説明してもらう
- 予想外の詳細について質問する
- 同じ内容を異なる角度から繰り返し質問する
証拠の収集と記録の重要性
ヒアリングで得られた情報は、適切に記録・整理することで初めて証拠として価値を持ちます。
正確な記録の取り方
- 相手の同意を得た上での録音(法的制約に注意)
- 主要なポイントのメモ(時間や場所、人物名などの基本情報を含む)
- 相手の言葉をそのまま記録(解釈を混ぜない)
- 非言語情報や環境情報も記録
証拠としての整理方法
収集した情報を以下のように整理します:
- 時系列での整理(タイムライン作成)
- 関係者ごとの証言の比較表
- 証拠の種類(直接証拠、状況証拠、伝聞など)の分類
- 証拠の信頼性評価
法的観点からの注意点
調査結果が後の法的手続きに使用される可能性を考慮し、以下の点に注意します:
- プライバシーや個人情報保護法に配慮
- 適切な同意の取得と記録
- 証拠の連鎖(Chain of Custody)の維持
- 記録の改ざんや紛失を防ぐための適切な保管
プロの視点:証拠は「量」より「質」が重要です。一つの強固な証拠は、多数の曖昧な証拠よりも価値があります。また、複数の独立した情報源から同じ事実が確認できれば、信頼性は大幅に高まります。
ヒアリング後のフォローアップと対応
ヒアリングで得られた情報を基に、適切な対応を行うことが重要です。
調査報告書の作成
効果的な調査報告書には以下の要素を含めます:
- 調査の概要(目的、範囲、方法など)
- 事実認定(確認された事実と証拠)
- 分析と結論
- 再発防止のための提言
再発防止策の提案
不正の根本原因を特定し、以下のような対策を提案します:
- 内部統制の強化(チェック体制、権限分散など)
- コンプライアンス教育の充実
- 内部通報制度の整備
- 組織文化・風土の改善
法的対応の検討
状況に応じて、以下の法的対応を検討します:
- 懲戒処分(就業規則に基づく)
- 民事上の請求(損害賠償など)
- 刑事告訴(横領、背任等の犯罪行為の場合)
- 行政機関への報告(必要に応じて)
まとめ:プロフェッショナルなヒアリング調査の極意
社内不正の調査における「ヒアリング」は、単なる聞き取りではなく、高度な専門性を要する技術です。本記事で紹介した以下のポイントを押さえることで、より効果的な調査が可能になります:
- 入念な準備と計画の重要性
- 信頼関係構築のためのコミュニケーション技術
- 真実を引き出すための質問テクニック
- 虚偽の証言を見抜くための観察力
- 証拠の適切な収集と記録
- 調査後の適切なフォローアップと対応
社内不正は早期発見・早期対応が鍵となります。不正の兆候を感じたら、専門家に相談することをお勧めします。三河探偵事務所では、豊富な調査経験と専門知識を活かし、企業の社内不正調査をサポートしています。お気軽にご相談ください。
社内不正でお悩みですか?
三河探偵事務所では、経験豊富な調査員による高品質な社内不正調査サービスを提供しています。初回相談は無料です。
本記事の監修者

森下
調査責任者
ブエナヴィーダ株式会社
専門性
- 探偵業30年
- 社内不正調査年間100件以上
経歴
- 大手探偵事務所勤務
- ブエナヴィーダ株式会社にJoin
森下は、大手単事務所に20年以上勤務していた専門家です。ブエナヴィーダ株式会社では調査責任者として指揮しています。
社内不正調査については、その専門性を活かして年間100件以上を指揮しています。