競業避止義務違反の元社員の素行調査
1. 事例の概要
問題の発覚と依頼内容
愛知県に本社を置く自動車部品メーカーA社から当社へご相談がありました。同社の研究開発部門で10年以上勤務していた技術者B氏が退職後、競合企業C社へ転職した疑いが浮上したのです。B氏は在職中、次世代自動車部品の開発プロジェクトの中核を担っており、A社独自の製造技術や設計情報に精通していました。退職時には競業避止義務を含む誓約書に署名していましたが、退職から3ヶ月後、取引先から「C社がA社と酷似した新製品の開発を進めている」との情報が寄せられました。競業避止義務違反の疑いと兆候
- B氏の退職後、同業他社の展示会で見かけられたという情報
- 元同僚へのB氏からの不自然な接触(食事や飲み会への誘い)
- C社が突如として類似技術分野での特許出願を急増させていた
2. 調査の進め方
実施した調査手法
当社では行動調査を中心に以下の調査を実施しました:オープンソース情報の収集分析
- C社の採用情報、プレスリリース、特許情報の詳細分析
- 業界展示会や学会発表の情報収集
- SNSや専門ネットワークサイトでのB氏の活動状況確認
行動調査
- B氏の日常行動パターンの把握(居住地、生活動線)
- C社への出入り状況の定点観測(出勤・退勤時間、通勤経路)
- 業界関係者との接触状況(商談、会食など)の確認
- 技術セミナーや展示会での活動状況の観察
聞き込み調査
- 業界関係者からの間接的な情報収集
- 同業者ネットワークを通じたC社の最近の動向確認
証拠収集のポイント
- 法的証拠能力を確保するため、調査手法はすべて適法な範囲内で実施
- 公共の場所での観察のみに限定し、プライバシー侵害を厳に回避
- 写真や映像による客観的な記録の作成
- 時系列に沿った行動記録の詳細な文書化
3. 調査で判明した事実
競合他社との接触状況
調査の結果、以下の事実が判明しました:- B氏は平日の日中、C社の研究開発センターに定期的に出入りしていた
- 社員証らしきIDカードを使用し、社員専用入口から出入りしていた
- 月に2回程度、C社の幹部と思われる人物との会食を繰り返していた
- 業界展示会でC社ブースに長時間滞在し、来場者への技術説明を行っていた
B氏と元同僚との接触
さらに次のような事実も確認されました:- B氏は退職後も複数のA社現役社員と定期的に接触していた
- 特に開発部門の若手技術者との頻繁な会食(月2〜3回)
- 会食の場では技術的な話題で盛り上がる様子が観察された
- A社の技術資料らしき書類を受け渡す場面も確認
4. 解決策と対応
話し合いによる解決
調査によって収集された証拠をもとに、A社はB氏およびC社との話し合いの場を設けることを選択しました。法的措置ではなく、業界内の信頼関係と将来的な協力関係を考慮し、友好的な解決を目指したのです。 話し合いの場では、以下の点が合意されました:- B氏はA社在籍時に関与した特定プロジェクトに関連する業務からは一定期間(1年間)離れること
- C社はA社の技術情報を利用した製品開発は行わないことを確約
- B氏とA社の現役社員との不適切な情報交換を停止
- 両社間で技術協力の可能性について今後検討していくことに合意
企業側の対策実施
A社は社内対策として以下の対応を実施しました:- 社員教育の強化(競業避止義務の重要性について)
- 退職プロセスの見直し(退職時の誓約内容の明確な説明)
- 社内コミュニケーションガイドラインの策定(退職者との接触に関するルール)
5. 事例から学ぶ教訓
再発防止のためのポイント
- 退職者との接触に関する明確なガイドラインの策定
- 社員への競業避止義務の意識付け強化
- 技術情報の社外持ち出し防止のための物理的措置の導入
- 定期的な業界動向のモニタリング体制の構築
効果的な競業避止契約の作り方
- 保護すべき正当な利益の明確化
- 地理的・時間的・業務的範囲の合理的な設定
- 違反時の具体的なペナルティの明示
- 退職時の面談での再確認プロセスの制度化
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本記事の監修者

田中代表
代表取締役社長
ブエナヴィーダ株式会社
資格・専門性
- 公認システム監査人(CSA)試験合格
- 公認不正検査士(CFE)試験合格
経歴
- 内部監査室室長
- 外務省在外公館専門調査員
代表の田中は、企業の内部監査室室長として社員の不正等を監査し、また、外務省在外公館専門調査員として外国公務員贈賄防止等に尽力した経験を持つ専門家です。
現在は、ブエナヴィーダ株式会社の代表として、その豊富な経験と専門知識を活かし、社内不正調査業務を指揮しています。